大判例

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東京高等裁判所 昭和29年(う)1841号 判決

被告人 加納勇 外

〔抄 録〕

甲、乙、丙三弁護人の共同論旨第一点について。

所論は原判決の判示第一の記事は、(一)公共の利害に関する事項であつて掲載の目的は専ら公益を図ることにあつたのであり、しかも(二)摘示した事実は被告人加納勇において真実であると信じ、且つかように信ずるにつき相当な理由があつたのであるから名誉毀損の故意を阻却し罪とならないものであるといつて、原判示第一事実につき原判決の事実誤認を主張するものである。よつて按ずるに原判示第一の被害者Aは当時父母共に公職にあり社会的にも相当著名な家庭であり右Aの継母子関係に基因する転落行為を事実として報道しこれを社会問題として世人の関心と注意を喚起すべく取扱う限りにおいてはその所為は公共の利害に関する事実に係りその目的専ら公益を図るに出でたものと認めて可なるべく従つて事実の証明があつた場合は犯罪の成立が阻却せられること所論のとおりである。しかしながら訴訟記録並びに原審において取調べた証拠を調査検討するに、本件は原判示の如くAの売春行為を摘示し一般読者の好奇心の満足を図り興味をそそろうとしたことがその主たる目的であつて、只これに附随して継母子関係を取上げ同情的論評を加えたに過ぎないものと認むるを相当とするからその記事が公共の利害に関する事実であつて掲載の目的は専ら公益を図ることにあつたと解することはできない。然り而して原判決の挙示する関係各証拠を綜合すれば原判示第一の事実は優に肯認することができる。今仮に一歩を譲り被告人加納勇の原判示第一の所為は所論のとおり公共の利害に関する事実に係りその目的専ら公益を図ることにあつたものであるとするも刑法第二百三十条ノ二に所謂事実の証明即ちAが夜の女として街頭に立つていたという事実については記録上何等証明の存するあるを見ない。要するに本件の記事は原判決も指摘するとおり原審相被告人千家紀彦及び被告人加納勇の粗漏極まる取材及び編輯によつたものであるから事実の証明は勿論のこと被告人等がその摘示した事実を真実であると信じ且つその信ずるにつき正当な理由ありとされるような客観的状況の存在することについての証明もないのである。尤も訴訟記録並びに当審における事実取調の結果に徴するとAには嘗て少くとも不行跡のあつたことを信じさせるような資料の存することは否めないが、しかしそれとても本件の数年前のことに属するのであるから、これを以て直ちに所論の裏付とすることは適当でない。その他訴訟記録並びに原審で取調べた証拠を調査し且つ当審における事実取調の結果を参酌検討するも原判決に所論のような事実誤認の過誤あるを見ないから、論旨は理由がない。

註 本件破棄は量刑不当。

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